2016年7月13日水曜日

78.サンヴァーダ(संवादः [saṃvādaḥ]) - 対話、ダイアローグ

クリシュナが手綱を持ったまま教えているところに注目。


ウパニシャッド 、そしてバガヴァッド・ギーターは、

「サンヴァーダ(対話・ダイアローグ)」によって構成されています。

今回は、この言葉の語源と、さらに、

日常で私たちが気を付けるべき、対話のあり方を、

インドの伝統的な文献で使われている言葉を通して説明しますね。

 

サンヴァーダの語源



サンヴァーダは、「サム」と「ヴァーダ」に分けることができます。

「サム सम् sam」という接頭語には、「良い」「完全な」などの意味があります。

「ヴァーダ वाद vāda」は、「ヴァド वद् vad」=「話す」という意味の動詞の原型から派生しています。

「話す」に、 「~すること」「~されたもの」等の意味を表す接尾語を付加して、

वद् vad (話す)+घञ् ghañ (~すること、~されたもの)

= 話すこと、あるいは、話されたもの (対話・会話・ダイアローグ)

となるわけです。

文法が大好きな人の為に、最後に派生をスートラと共に載せておきますね。



3種類の「対話」


サンスクリット語には、他にもいくつかの「対話」という意味の言葉があります。

サンスクリットの文化では、一般的な対話は、3種類に分けて説明されます。


1.ヴァーダ (वादः vādaḥ)


接頭語の「サム」を付けずに、「ヴァーダ वाद vāda」だけでも、

「対話」という意味になります。

これは、ウパニシャッドの中に見られる「師と弟子との対話」ではなく、

対話する両者は同等です。

そして、ある題材について、より深い理解を得るために、

話し合い、検討しあう、という健康的で建設的な対話を、

「ヴァーダ वाद vāda」と呼びます。

サンスクリット文法のような、インドの伝統的な学問では、

こうやって生徒同士が集まって、議論しながら互いの理解を深め合う「ヴァーダ」を、

知識の修得過程の重要な一部としています。

それを教えるシュローカ(詩節)があります。

आचार्यात्पादमादत्ते पादं शिष्यः स्वमेधया । पादं सब्रह्मचारिभ्यः पादं कालक्रमेण तु ॥
ācāryātpādamādatte pādaṃ śiṣyaḥ svamedhayā | 
pādaṃ sabrahmacāribhyaḥ pādaṃ kālakrameṇa tu || 

生徒は、先生から4分の1を得て、自分の記憶力や努力によって4分の1、
生徒同士のディスカッションによって4分の1、
そして最後の4分の1を、時間の経過によって得るのです。

ちなみに、ヴェーダーンタに関しては、これは完全に通用するものではありません。

(追記: それは何故ですか?という質問があったので、こちらで答えています。)


私はインドでサンスクリット文法を教えていますが、

リシケシで私が他の生徒達と一緒にしてきたように、

自分の生徒達にも、自主的なスタディ・グループを作って助け合うことを推奨しています。

私の、私の先生方の、そしてその先生方たちの「Help(助ける)」の精神によって、

このサンスクリットの文法の知識が何千年も教え継がれてきたことを、

私の生徒にも知ってもらいたいからです。 


サンスクリット文法の勉強によって、客観的な分析力が養われるだけでなく、

勉強する過程でいろんな人と関わることから、様々な形を通して心が磨かれていきます。

これについて書き出すと長くなるので、またの機会に。




対話を健康的・建設的にして、実りのあるものにするために、

意識して避けるべきものとして、以下の2つのタイプの対話が定義されています。


2.ジャルパ (जल्पः jalpaḥ)



互いが既に確たる信念を持っていて、平行線を辿るだけの対話をジャルパと言います。

「正しいのは自分だけ」「間違っているのは相手だけ」と、

両者ともが互いに主張するだけの対話を指します。



3.ヴィタンダー (वितण्डा vitaṇḍā)


相手を否定することのみに専念した言葉のやりとりです。

「あなたの言っていることは全て間違っている!」

なんで?

「あなたが言っているから!」

というタイプの対話です。


このように書くと馬鹿ばかしく見えますが、程度の差こそはあれ、

日常会話でも頻繁に見られるような会話のパターンです。


考えを整え、無知と混乱を無くしていくには、まず、

自分が使う言葉を正していくことから始まります。

ちょうど、校正を入れて、無駄な言葉をどんどんそぎ落としていき、

本当に役に立つ言葉だけを残していくように。

これは「知的」な作業です。 

 「雑念を払う」といった類の、マインドをいじくりまわすテクニックではありません。



毎日の何気ない会話の中で、そして心の中での仮想会話の中で、

ジャルパやヴィタンダーに陥っていないか?

私は今、自分と相手を正しい理解に導くために言葉を使っているのか?

と、応用するために、これらの対話の分類があるのです。


そして、ヴェーダやヴェーダーンタを勉強している人が知っておくべき、

もう一つのタイプの対話は、「ヴァーダ」の前に「サン」を付加した

「サンヴァーダ」です。
ॐ तत्सदिति श्रीमद्भगवद्गीतासूपनिषत्सु ब्रह्मविद्यायां योगशास्त्रे श्रीकृष्णार्जुनसंवादे ...
om̐ tatsaditi śrīmadbhagavadgītāsūpaniṣatsu brahmavidyāyāṃ yogaśāstre śrīkṛṣṇārjunasaṃvāde ...
(ギーターの各章の最後に付加されている文章。
「クリシュナとアルジュナのサンヴァーダに於いて、、、」)

4.サンヴァーダ (संवादः [saṃvādaḥ])



先生と生徒の間での、質問と答えからなる対話を、サンヴァーダと呼びます。


これは、対等なメンバーでのディスカッションとは異なります。

単なるひとつの意見を聞かされているのでは無いのです。

生徒の側から、正しい質問をしなければ始まりません。

ギーターでも、परिप्रश्नेन सेवया とありますね。

ヴェーダーンタの文献の中で見られるサンヴァーダでは、生徒は先生に対して、

「あなたの意見を聞かせてください」

ではなく、

「真実は何ですか」

と問いかけているので、

先生からの答えに対して、「そういうものの見方もあるのね」や、

「わたしは自分なりにこういう風に取りました。(先生の伝えたかったことは知らないけど。)」

という、日本で今流行り?の「人それぞれの受け止め方でいいじゃな~い」という姿勢では、

世渡りは出来ても、ヴェーダーンタの教える真実は正しく理解出来ません。


「サム सम् sam」という接頭語と、「ヴァド वद् vad」という動詞の原型の組み合わせには、

「合意する」という意味もあります。

リグ・ヴェーダの一番最後に、「サンヴァーダ・スークタム」 というマントラがあります。

またの名を「アイカマッティヤ(皆の心がひとつになる)・スークタム」です。

その名の通りの実現を願って、

コレクティブ(皆が集まって全体として)・プレーヤー(祈り)として使われるマントラです。

昔は、議会に集まる人々が毎朝初めに唱えていたそうです。

人が集まって議論すれば必ず、侃侃諤諤+喧喧囂囂=喧々諤々となるのが、

この宇宙の創造の法則となっているがゆえに、

こういうプレーヤーが必要(セットで創造された)ということなのでしょうね。


ちなみに、こちらのグルクラムでも、今年から、毎月初めの木曜日に、

このマントラを108回唱えるホーマをしています。

ヤッグニョーパヴィータを着けている(ヴェーダのマントラを儀式で唱える資格のある) 生徒達が、

祭司と共に、分担して一緒に唱えます。

もちろん他の生徒も一緒に座って、ホーマを見守りながら参加します。

ホーマとは、こんな感じ。

意味はこちらを参考にどうぞ:http://www.speakingtree.in/blog/sa-j-nas-ktam
スワミニは、私の1期前の先輩です。

॥ ऐकमत्यसूक्तम् ॥ 
|| aikamatyasūktam ||
ॐ संसमिद्दुवसे वृषन्नग्ने विश्वान्नर्य आ
oṃ saṃsamidduvase vṛṣannagne viśvānnarya ā
इळस्पदे समिद्ध्यसे स नो वसून्न्या भर ॥
iḷaspade samiddhyase sa no vasūnnyā bhara ||

संगच्छध्वं संवदध्वं सं वो मनांसि जानतां
saṃgacchadhvaṃ saṃvadadhvaṃ saṃ vo manāṃsi jānatāṃ
देवा भागं यथापूर्वे संजानाना उपासते ॥
devā bhāgaṃ yathāpūrve saṃjānānā upāsate ||
समानो मन्त्रस्समितिस्समानी
samāno mantrassamitissamānī
समानं मनः सहचित्तमेषां ॥
samānaṃ manaḥ sahacittameṣāṃ ||
समानं मन्त्रमभिमन्त्रये वः
samānaṃ mantramabhimantraye vaḥ
समानेन वो हविषा जुहोमि ॥
samānena vo haviṣā juhomi ||
समानी व आकूतिस्समानो हृदयानि वः
samānī va ākūtissamāno hṛdayāni vaḥ
समानमस्तु वो मनो यथा वस्सुसहासति ॥
samānamastu vo mano yathā vassusahāsati ||
ॐ शान्तिः शान्तिः शान्तिः ॥
oṃ śāntiḥ śāntiḥ śāntiḥ ||




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こちらも:
8.デーヴァター(देवता [devatā])- 法則を司る神



文法好きな方へ:
वद् + घञ्    3.3.19 अकर्तरि च कारके संज्ञायाम् । ~ भावे घञ्
接尾語घञ्が、動詞の主体以外(動詞そのものの意味、動詞の目的語、など)の意味で付加される。
वद् + अ      1.3.8 लशक्वतद्धिते।, 1.3.3 हलन्त्यम् । ~ इत्, 1.3.9 तस्य लोपः।
接尾語に付けられた印の意味での音が取られる。中身はअk印はघ्, ञ्。
वाद् + अ     7.2.116 अत उपधायाः। ~ वृद्धिः ञ्णिति
接尾語印にञ्があるので(ञित्)、接尾語の前にある基幹にある、後ろから2番目の短いअにवृद्धिが起きる。
वाद
名詞の原型の完成。 घञ् で終わる名詞は男性名詞となって活用します。

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