サンスクリット語の音声学、文法学は、幾何学模様のように理路整然としてとても美しいんですよ。
サンスクリット語の美しさを鑑賞していただきたく、このコラムを書きました。
現在では「YOGA」は国際共通語になっていて、
それぞれの国の訛りの発音で、その国の言葉して定着していますね。
「ヨガ」も日本語になっているので、日本語としては私は口出ししませんが、
サンスクリット語として発音するとなると、
サンスクリット語の正統文法(パーニニ)を原文で伝統に沿って学び教える立場として、
ヴェーダという言葉から成る知識集合体を研究者として、
ちょっと待った!と言わなければなりません。
なぜなら、サンスクリットの音を発声すること自体が、神聖な行為で、
行為であるがゆえに結果を生むからです。
音自体が結果を生む言語、サンスクリット
サンスクリット語は音を基調とした言語であり、
文字自体に意味を持つ、漢字を使ったような言語ではありません。
その音そのものが結果を生むとされているので、
間違った音で発音すると、不本意な結果を招くとされています。
ヴェーダなどのサンスクリット語で教えられる知識は全て口伝であるゆえに、
サンスクリットの音の純粋さを守る為に、
とても理路整然としたサンスクリット語の音声学(発音の科学)があります。
これは、「シックシャー」という名前で呼ばれる学問で、
ヴェーダの朗唱を学ぶ際に最初に勉強する学問として、
伝統の中で今でも生きて受け継がれています。
タイッティリーヤ・ウパニシャッドも、第一章は
शीक्षां व्याख्यास्यामः । वर्णस्स्वरः । मात्रा बलम् । साम सन्तानः । इत्युक्तश्शीक्षाध्यायः ।
śīkṣāṃ vyākhyāsyāmaḥ | varṇassvaraḥ | mātrā balam | sāma santānaḥ | ityuktaśśīkṣādhyāyaḥ |
で始まりますね。
日本の旧体制サンスクリット語学界の問題
しかし、日本の大学では、「yoga」を「ヨーグ」とヒンディー訛りで教え、
「これが現代風サンスクリットの発音です」と教えているそうです。
それはサンスクリット学者としてはしてはいけない、あり得ないことです。恐ろしい!
さらに、大学の先生が「サンスクリットは今では使われていない!」と豪語しながら、
私に言いがかりをつけて来るという始末もありました。
大学の先生なのに、祈りとしてインド全国で何千年も毎日使われている事実を全く知らない様子でした。
祭司の間で、シックシャーと共に受け継がれている事実など、
そういうことに日本の学界はまったく無知のようです。
日本の従来のサンスクリット研究は、植民地時代の西欧の学者のインド研究を基にしているので、
それが様々な問題の元凶のようです。
それなのに、「我らこそがアカデミックな権威」と威張っているのは、とても危険なことです。
でも、今の時代、インドの伝統知識について学びたければ、そのままインドに行って、
インドの伝統を守る人々から直接学ぶことが出来るのは、本当にありがたいことですね。
私はインドの伝統的な文化を守る人々の中で、
何世紀も途切れなく教え継がれている方法(パーニニ・スートラ)で勉強させてもらっています。
本当に感謝です。。
サンスクリットの母音の発音
母音の長さに関しては、1拍、2拍、3拍の3種類があります。
サンスクリット語の母音の「O」は、2拍の「オー」と3拍の「オーー」しかありません。
日本語や英語のように、1拍の短い「オ」が無いのです。
ゆえに、短い「ヨ(YO)」も在り得ないのですね。
日本語は2拍の母音を「ー」という記号で表しているのを踏まえて、
音声学的な正誤をつけると、
誤:「ヨガ」 正:「ヨーガ」
誤:「ヨギ」 正:「ヨーギー」
誤:「ヨギーニ」 正:「ヨーギニー」
となります。
特に「ヨーギニー」が「ヨギーニ」と全く逆さまのあべこべになっているのは、
サンスクリット語からまず英語のローマ字表記「YOGINI」になって、
その上に、英語などの西洋語の訛りで発音されて、
それが日本語に表記されて、「ヨギーニ」と成ったのでしょう。
サンスクリットの正しい発音表はこちらを参照下さい。
「ヨーガ」、「ヨーギー」、「ヨーギニー」というそれぞれの言葉の形成はどのようになっているのでしょうか。
ひとつずつ見ていきましょう。
「ヨーガ」という言葉の形成
音だけで説明すると、
YUJ + A 動詞の原型 「ユジ(युज् [yuj])」に「ア」という接尾語が付く。
= YOJ + A U が O に変わる
= YOG + A J が G に変わる
= YOGA
意味の説明はこちらをご覧ください。
「ヨーギー」という言葉の形成
YOGA + IN 「~を持つ者、~がある人」という意味の接尾語「IN」がついて、
= YOG + IN 後ろに母音が来ると、Aで終わる言葉は、最後のAが落ちます。
= YOGIN 名詞の原型の出来上がり。
YOGIN(ヨーギン)が、主格・単数で活用すると、「ヨーギー」となります。
「I」が伸びて、最後の「N」が落ちるのですね。
「ヨーギ二ー」という言葉の形成
先ほど作った、YOGIN(ヨーギン)という言葉を、女性形にする場合、
最後に「Ī (イー)」という長母音の接尾語が付きます。
YOGIN + Ī
= YOGINĪ (ヨーギニー)
言葉の形成を知ると、その言葉をより深く鑑賞し、さらに正しく覚えやすくなりますね。
文法好きな人の為に、一番下に詳しい説明を載せておきますね。
第2弾 「ハリオ~ム」は「ハリヒ・オーム」
サンスクリットは発音が大事!第2弾 「ハリオ~ム」は「ハリヒ・オーム」 |
文法好きな人の為に:
युज् + घञ् घञ् is suffixed by 3.3.18 भावे । to make an abstract noun,
or by 3.3.19 अकर्तरि च कारके संज्ञायाम् ।, in other sense.
घञ् is an आर्धधातुकप्रत्यय by 3.4.114 आर्धधातुकं शेषः ।
घ् is इत् by 1.3.8 लशक्वतद्धिते ।, ञ् is इत् by 1.3.3 हलन्त्यम् ।
युज् + अ अनुबन्धलोप by 1.3.9 तस्य लोपः ।
योज् + अ Since घञ् is an आर्धधातुकप्रत्यय, गुण takes place on the penultimate short इक्
by 7.3.86 पुगन्तलघूपधस्य च ।
योग् + अ Because घञ् has घ् as इत् letter, ज् becomes कवर्ग by 7.3.52 चजोः कु घिण्ण्यतोः।
योग घञ्-ending word is masculine. Thus it declines like राम. i.e. योगः, योगौ, योगाः, etc.
योग + इनिँ इनिँ is suffixed after अ-ending nominal base in the sense of "one who has ~"
by 5.2.115 अत इनिठनौ ।
इँ is इत् by 1.3.2 उपदेशेऽजनुनासिक इत् ।
योग + इन् अनुबन्धलोप by 1.3.9 तस्य लोपः ।
The stem "योग" gets भ-संज्ञा by 1.4.18 यचि भम् ।
योग् + इन् अवर्ण/इवर्ण-ending भ-stem loses its ending by 6.4.148 यस्येति च ।
योगिन् इनिँ-ending word can be any gender.
When it declines in masculine, योगी, योगिनौ, योगिनः, etc.
योगिन् + ङीप् ङीप् is suffixed to make a feminine word out of "yogin", a न्-ending stem
by 4.1.5 ऋन्नेभ्यो ङीप् ।
ङ् is इत् by 1.3.8 लशक्वतद्धिते ।, प् is इत् by 1.3.3 हलन्त्यम् ।
योगिन् + ई अनुबन्धलोप by 1.3.9 तस्य लोपः ।
योगिनी It declines like नदी; योगिनी, योगिन्यौ, योगिन्यः, etc.
(上記の計算式のようなものは、パーニニ文法といわれるメタ言語システムを使って、サンスクリット語の派生を分かりやすく説明したものです。2千年以上に渡って、インドの学者やサドゥー達によって受け継がれてきた知識です。私もリシケシのガンジス川沿いの藁葺小屋で、サドゥー達からこれを学びました。)
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