2014年11月22日土曜日

37.コーシャ(कोशः [kośaḥ])- (剣や刀を収める)鞘(さや)、被覆するもの

कोशः
[kośaḥ] 


masculine - (剣や刀を収める)鞘(さや)、被覆するもの





ヨガ・インストラクター養成講座や本などを通して、ヨガ哲学らしきものを勉強した人なら

聞き覚えのある言葉 - 「パンチャ・コーシャ」のコーシャです。

「パンチャ」とは数字の5です。直訳すると「5つの鞘(さや)」となります。


パンチャ・コーシャの意味


この「パンチャ・コーシャ」という言葉は、間違った理解&あいまいな理解が

先走りしている、ヨガ用語の代表的なひとつです。


「パンチャコーシャ」の間違った理解の一般例
アートマンって一番ちっちゃいの?
外は全部捨てちゃっていいの?


サンスクリット語によって代々教え継がれている、

正しい伝統に沿った意味を、ここでは日本語で、分かり易く説明します。


ちなみに、「分かり易く」とは、単純化しているのではありません。

伝統的でないインド哲学に氾濫している「神秘的な言葉遊び」をしない、ということです。

教えとは、先生から生徒への言葉を通したコミュニケーションです。

聞き手が理解出来て、初めてコミュニケーションなのです。



ではまず、自分や世界のことを理解するために、

なぜ「コーシャ(鞘)」という概念が使われるのか?

伝統的に言われる理由は2つあります。


理由1: 自分が見つかる場所だから。


この部屋の中に剣があるとしたら、その剣はどこにある?

と聞かれたら、まず鞘を探しますよね。

鞘が見つかれば、そこに剣がある、と認識する。

同じように、「あなたは何処にいますか?」「あなたは誰?」と聞かれた時に、

人間は誰でも、だいたいこの5つのコーシャのどれかを基準にして、

「私は~にいる」、「私は~だ」と答えます。



理由2: 鞘のように隠すから

上で見たように、「私」=「~~(誰それ)」という自己認識の右辺の部分として、

認識されているのが、この5つのコーシャです。

私が、5つのどれでも有り得る、ということは、私は5つの全てであり、

同時に、本質的には5つのどれでも無い、ということでもあります。

私の本質は、5つのうちのどれでも無いのに、

「私は~だ」とはっきり答えてしまうのは、自分の本質が理解出来ていない証拠です。

それゆえに、自分の本質を取り違えてしまう対象、

という意味で「コーシャ」が使われています。



では、5つのコーシャをひとつづつ見て行きましょう。


1.アンナマヤ・コーシャ(物質的な身体)


「私は太っている」「私は痩せている」「私の背は高い」などと言う時、

その人は、食べ物の変化によって作られた物質的な体で自分を認識しています。

太っていることや瘦せていること、背の高さや鼻の高さは、

自分の存在、「私は今ここに居る」という意識的存在とは何の関係もありません。

なのに、慣習的に体で自己認識をしてしまいます。

このように、「自分」という言葉の意味として認識されている物理的身体のことを、

アンナマヤ・コーシャと言います。


2.プラーナマヤ・コーシャ(生理機能的な身体) 


「私は元気だ」「私は病気を患っている」「お腹が空いた」と言う時の、

自己認識の対象を、プラーナマヤ・コーシャと呼びます。


3.マノーマヤ・コーシャ(流動的な心の機能)

「私は悲しい」「私は怒っている」「どうしようかな」「こんなのいいかな」と言う時、

常に移り変わる心の動きで自己認識をしています。

心を池の水に例えると、心の動きは水の表面に現れるさざ波のようです。

波の形が、感情や考えの形と例えられます。

心理的法則に従って、ありとあらゆることを、次から次へと自動的に、

波紋のように、感情や考えは表れ続けます。

そんな心の状態で自分を認識しているとき、

その人は、マノーマヤ・コーシャにおいて自己認識をしていると言えます。


4.ヴィッギャーナマヤ・コーシャ(しっかりした思考能力、私という個体認識)

マノーマヤ・コーシャにおいての考えが流動的で自動的であるのに対して、

理知や分析、智恵や道徳心を使って、自分なりに出した結論や決心によって、

「こうあるべきだ」「こうするべきだ」「こうに違いない」

と考えている時、その人はヴィッギャーナマヤ・コーシャによって自己認識をしています。

また、「アハンカーラ」と呼ばれる心理機能も、ヴィッギャーナマヤ・コーシャに含まれます。

アハンカーラとは、「私は~~だ」の「~~」の部分を探し、

「私は~~だ」という文章を完成させる心理機能です。

これは、生活をする上で必要な機能です。

「アハンカーラを捨てろ!」とかいう台詞をよく聞きますが、

捨てるのは無理ですし、捨てる必要もありません。

アハンカーラを、アハンカーラという心理機能として認識していればいいだけです。

さらに、望ましい結果の期待できる行動をしている時の、

「私が~をする」「私は~をしている」という行動の主体として自分を認識するのも、

ヴィッギャーナマヤ・コーシャにある機能です。



5.アーナンダマヤ・コーシャ(幸せを感じている心)


どんな不幸な状況に置かれていても、人は、時折起こる小さな出来事や大きな出来事で、

幸せを感じながら生きています。

幸せを感じている時とは、どんな時でしょうか?

それはずばり、自分の抱えている問題や、コンプレックスを忘れている時です。

例えば、平和な動物や風景を見ている時、

音楽を聴いている時、自分の好きな人やものと一緒に過ごしている時、寝ている時、、、

そんな時の気持ちが、アーナンダマヤ・コーシャです。

ただシンプルな幸せな気持ちです。

ヨガ・スクールが提唱するような瞑想など必要ありません。


そして、その気持ちで自分を認識している時、つまり、

「あー、幸せ」と感じている時、衝突の無い、平和な時間を楽しんでいる時、

私は、アーナンダマヤ・コーシャで自己認識をしていると言えます。


私達は皆、幸せになりたくて、言い換えると、この「幸せな私」を再現するが為に、

毎日、一生の間ずっと奔走しています。

つまり、この「幸せな気持ち」で自己認識している自分は、

体、心、知能など、他のコーシャで自己認識している自分達の全ての

ボスなのです。全ての動機は、シンプルに「幸せになりたい」だけなのです。



「パンチャ・コーシャ・ヴィヴェーカ」

5つ(パンチャ)の鞘(コーシャ)という概念を使った、

自分の本質とそれ以外を見分ける為の分析(ヴィヴェーカ)。

これは、タイッティリーヤ・ウパニシャッドがベースになっていますが、

タイッティリーヤ・ウパニシャッドの中では「コーシャ」という言葉は一回も使われていません。



物質的に見て、この体は、宇宙全体の一部です。

この宇宙のかけらをもらって、体が生まれて、死んだらまた宇宙に返ります。

生きている間も、呼吸や新陳代謝を通して、物質的な交換が行われています。

ゆえに、この体は宇宙全体の「一部」として切り離すことすら出来なくなります。

そんな物質的な体を「私」たらしめているのは、、

生理学的機能。生きてこそ「私」です。

私だけでなく、全人類、哺乳類、昆虫、微生物など、全ての生き物は、

生理学的機能により生かされており、その原理は同じです。

そして宇宙人でもデーヴァ(天国の住人)でも、彼らが生きていられるのは、

私達にも共通している、生理学的機能のおかげです。


生きてたら考えたり、感じたりします。

心理学的反応とも呼べる機械的な考え、思考判断に基づく結論、幸福感、

全ては、脳内のシナプス間の電流という物理的なものです。

全ての生き物、地球上のみならず、どの場所でも、どの時間においても、原理は同じです。


それを「私」たらしめているのは、、

今ここに居る私ですね。

どこに探しに行く必要も無い私です。




「パンチャ・コーシャ」の理解の重要なポイントは、

「パンチャ・コーシャ」のどの部分も、宇宙とは切り離せない。

という事実です。


これを理解するのに必要な知識は、一般常識の範囲の自然科学で十分です。

中学校や高校のレベルの数学、生物学、化学、物理学、地学、天文学、心理学、

これらの知識は、「自分はどの部分をとっても、宇宙と切り離せない存在だ」

と言い切るのに十分な理論的バックアップを与えてくれます。

「パンチャ・コーシャ」は、理解の対象である事実を教えるためのモデルです。

神秘的な体験や実践を謳う言葉の集合ではありません。

多くの人々が、神秘的(ミスティック)な言葉にほだされています。

神秘的とは何でしょうか。
  • 理屈が通っていない。
  • 聞き手が理解出来ていない。
  • 話し手も自分が何を言っているか分かっていない。

というのが神秘的と言うものです。

そういうものは、一時的に良い気分にしてくれるかもしれませんが、

根本的な問題の解決にならないどころか、より遠ざけてしまいます。





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たった一つの、唯一のという意味のサンスクリット語の言葉です。
なぜ一つであることと、幸せとが関係しているのか、じっくりヴェーダの教えの伝統に沿って説明します。



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数え切れないほど大きな数、という意味のサンスクリット語です。

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