2017年8月9日水曜日

86.マハー・バーラタ(महाभारतम् [mahābhāratam]) - 偉大なるバラタ族の歴史物語

マハーバーラタとは、紀元前○○世紀頃に著された叙事詩で、、、
とかいう、伝統では価値が認められていない年代などの情報は、もちろんここでは扱いません。
インドの伝統文化においての生活から得た学びならではの、
マハーバーラタのイントロダクションをまとめてみました。

 このページの目次

1.マハーバーラタのお祈り
2.マハーバーラタの別名、「ジャヤ」
3.マハーバーラタに隠された数字、「18」
4.マハー・バーラタの語源
5.バーラタとは 
6.マハーバーラタの入れ子式話し手  
7.マハー・バーラタの、ヴェーダ文化における聖典としての位置づけ

(アンカーを手作業で貼るのが出来なかったので、各自でスクロールダウンしてください。。。)



1.マハーバーラタのお祈り


聖典を読むとき、聴くときは、必ずお祈りから始めます。
それは、マハーバーラタの冒頭にあるお祈り自体の中でも言及されています。

नारायणं नमस्कृत्य नरं चैव नरोत्तमम् | देवीं सरस्वतीं व्यासं ततो जयमुदीरयेत् ||
nārāyaṇaṃ namaskṛtya naraṃ caiva narottamam |
devīṃ sarasvatīṃ caiva tato jayamudīrayet ||

意味:
ナーラーヤナ(ヴィシュヌ、クリシュナ)と、
最も秀でた人間であるナラ(人間、アルジュナ)、
知性を司る、芸術・学問の女神サラッスヴァティー
そしてヴャーサに、ナマスカーラをしてから、
ジャヤ(マハーバーラタ)という物語について話しましょう。
(なんか優しい口調ですね。。。訳:私)

ナーラーヤナ」とは、全人類が欲しているゴール(アーヤナ)です。
人は時代により国により人種により、それぞれ違ったものを追いかけているようだけど、
あらゆるゴールの裏にある、唯一の真のゴールとは、満たされている自分、
ただひとつそれだけなのです。それに本人が気づいていてもいなくても。
そのゴールは全てに浸透しているかの如く、変わりゆくものに存在を与えている存在、
つまりヴィシュヌ(全てに浸透しているもの)であり、それを教えるのが、
マハーバーラタ戦争真っただ中で先生の役を務めている、
ヴィシュヌの化身クリシュナです。

人生のゴールとして自分の本質を知ることの必要性に気づき、
生徒になることを選んだ、最も秀でた人間(ナラ)はアルジュナです。

知ることに必要なのは、ブッディ(知性)であるゆえに、
サラッスヴァティー女神のもたらす恩恵が必要。

そしてこの人間が人間として生まれて来た意味を満たす知識を、
人類に言葉という形でもたらしたのが、マハーバーラタの作者である、ヴィヤーサ

この祈りの中に、重要なカードが全て提示されているのです。

マハーバーラタには数え切れない程のキャラクターや出来事が登場しますが、
結局、何を人類に教えているのか?
そこのフォーカスを逃してしまうと、単なる奇想天外な昔話に終わってしまいます。

お祈りをして、主要な事柄をデーヴァターとして心に想い描き、その恩恵により、
語る人の、聴く人の、心に準備がされるのです。
そして、マハーバーラタは始まります。。


2.マハーバーラタの別名、「ジャヤ」



お祈りのシュローカ(句)にもあるように、
マハーバーラタは、「ジャヤ(जय)」とも呼ばれます。
ジャヤとは、「勝利」ですね。
パーンダヴァに象徴されるダルマが、
ドゥリヨーダナに象徴されるアダルマに勝利するからです。

これは単純な勧善懲悪という図式よりも、
もっと複雑な人間の心理と、この世の真理を表しています。

パーンダヴァ側の王子であるアルジュナは、軍の数よりも、
あらゆる運・動きを司る、この宇宙の全ての知識であるクリシュナを選び取ります。

一方、ドゥリヨーダナは、執着という曇りに包まれた歪んだ考え・価値観の象徴です。

「ジャヤ(जय)」とは、ダルマのジャヤであり、そこにあるのは、
真実のジャヤ、つまりモークシャが教えられているのです。

「サッティヤメーヴァ ジャヤテー(सत्यमेव जयते)」
= 「真実のみが勝つ」

というのは、インドという国の標語にもなっている、ウパニシャッド(ヴェーダーンタ)の言葉です。
(ムンダカ・ウパニシャッド3.1.6)

सत्यमेव जयतेが見えますか?

3.マハーバーラタに隠された数字、「18」


数字に関しては、ヴェーダーンタの教えではあまり意味が問われないので、
話のネタ程度に聞き流してくださいね。

マハーバーラタの別名、「ジャヤ」の、
「ジャ(ज)」は、8を、「ヤ(य)」 は、1を表しています。
क्から数え始めてज्は8番目ですね。

マハーバーラタは、18のパールヴァという名前の章から成ります。

マハーバーラタの最重要部分、人間が人間として生まれた意味を教える、
ウパニシャッド(ヴェーダーンタ)の教えの部分である、
バガヴァッド・ギーターも18章から成ります。

1と8で9ですが、それはこんなことも関係しているのでしょうかね?

マハーバーラタ戦争は18日間続きます。

マハーバーラタ戦争に招集された軍隊の数は、
18アクシャウヒニー(अक्षौहिणी)という単位です。

1アクシャウヒニーは、
・ 21,870両の馬車
・ 21,870頭の象
・ 65,610頭の馬
・ 109,350人の歩兵
で構成されています。
全ての数は、一ケタごとの数を足していくと、、もちろん18ですね。

馬車1、象1、馬3、歩兵5からなる最小単位(पत्ति)を3倍ずつにしながら大きな単位のグループになり、7回3倍にして、最後に10倍にしたのがアクシャウヒニーです。計算してみてね。

カウラヴァ軍側に11アクシャウヒニー、
パーンダヴァ軍側には7アクシャウヒニー。
兵の数は少なくても、パーンダヴァ側が勝利します。

それは、戦わないけれども、運や知識をもたらせる、クリシュナというアヴァターラの存在に、
アルジュナが価値を見い出し、何万という兵隊よりも、
クリシュナひとりを見方につけることを選んだからです。
 

4.マハー・バーラタの語源


भरतान् भरतवंशीयानधिकृत्य कृतोग्रन्थ इत्यण्
(バラタの子孫を題材にした物語、
バラタに接尾語अण्を足して派生した言葉。)

出典:वाचस्पत्यम्  (梵梵辞典、サンスクリット語→サンスクリット語辞典の一種)


「マハー」は、皆さんよくご存じの、
「マハー・ラージャ」とか「マハートマー」という言葉にも使われている、
「偉大な」という意味の言葉です。原型はマハット(महत् [mahat]) 。


5.バーラタの意味



「バーラタ(भारत [bhārata])」 とは、
「バラタの末裔」という意味や、「バラタ族に関する物語」という意味です。

「バラタ(भरत [bharata])」とは、ラーマに忠誠を尽くして王国を守った異母弟の名前です。

サンスクリット語では、名詞に接尾語を付加して、新しい名詞を作る、
ということが頻繁に行われます。

「バラタ(भरत [bharata])」という名詞に、「~の子孫・末裔」という意味の接尾語を付けると、
一番前の母音が伸びて、「バーラタ(भारत [bhārata])」となります。
「~に関する物語」という意味でも、同じ接尾語がついて、同じ言葉になります。


「バーラタ(भारत [bhārata])」 とはまた、
インドに多数ある言語による、自国の名称です。

「インド」とか「インディア」というのは、外国人が勝手につけた名前で、
インドではインドのことを、誇り高きバラタの末裔の国「バーラタ(भारत [bhārata])」
と呼んでいるのです。

インドのコインや紙幣を見てみてください。
また出て来た!
 「バーラタ(भारत [bhārata])」が読めますか?
 
ライオンの下に書いてある、インドの標語「サッティヤメーヴァ ジャヤテー(सत्यमेव जयते)」
「真実のみが勝つ」という、ウパニシャッドの言葉も、
インド政府発行のお金経由で言われると、、意味の深みが増しますね。。。


6.マハーバーラタの入れ子式話し手


最初に紹介したお祈りの後に、見えないナレーターが、
スータ(सूत)とシャウナカ(शौनक)の会話を紹介します。

スータという名前で登場するウッグラシュラヴァス(उग्रश्रवस्)という人が、
ナイミシャーランニャ(नैमिशारण्य)という森の中を旅している時に、
その中で何年も続く儀式をしているリシ達に出会い、
リシ達の長であるシャウナカに、
最近何か変わった話が無いかと訊かれます。

スータは、自分の父親であり、ヴャーサの弟子でもある、
ローマハルシャナ(लोमहर्षण)が、ヴャーサから直接聴いた話を、
息子である自分に話してくれた話を話し出します。
 
その話は、ヴァイシャンパーヤナ(वैशंपायन)とジャヤメージャヤ(जनमेजय)の会話です。
ジャヤメージャヤは、マハーバーラタ戦争のパーンダヴァ側の唯一の生き残りである、
パリークシット(परीक्षित्)の息子です。
パリークシットはアビマンニュの息子で、アビマンニュはアルジュナの息子ですね。

ジャヤメージャヤは、サルパ・ヤッグニャ(蛇の儀式)の最中にヴァイシャンパーヤナに会い、
自分の祖先が主役である、マハーバーラタ戦争について尋ねます。
ヴァイシャンパーヤナもヴャーサの弟子なので、
ヴャーサから直接聞いたマハーバーラタ戦争について話し出します。


7.マハー・バーラタの、ヴェーダ文化における聖典としての位置づけ


マハーバーラタも、伝統的価値観を知っている先生から聴かなければ、
支離滅裂とした話にしか聞こえないかも知れません。

盲目の王ドゥリタラーシュトラの妃ガンダーリーが、
夫への献身と愛情を示すために自分も目隠しをしたことなど、
夫婦そろって、国を挙げての愚の骨頂です。
だからドゥリヨーダナのような愛情を欠いた息子を100人も世に送り出すことになったのです。
それなのに、マハーバーラタの話なら何でも盲目的に善しと捉え、
ガンダーリーを良き妻として褒め称えている語り部は沢山います。
盲目が盲目を呼ぶ、の良い見本です。


マハーバラタは、スムルティという聖典として、数えられています。
聖典ゆえに、自分で勝手に訳本を読んでも、正しい意味は得られません。
そもそも訳本を書いたその人が、伝統の教えを知らない場合が殆どですし。。。

最近は日本でも、アーユルヴェーダやヨーガ・スートラ、占星術など、
ヴェーダを中心とした、インドの文化を構成している文献を直接勉強する人も増えて来たので、
今度、シャーストラ(インドの文化を構成している文献)について、
何と何があって、どのように位置づけられているのかを説明しますね。




関連記事:

50.ヴェーダ(वेदः [vedaḥ])- 知る手段

65.ダルマ(धर्मः [dharmaḥ])- 世界のあり方を支えている法則 

34.クリシュナ(कृष्णः [kṛṣṇaḥ])

33.クリパー(कृपा [kṛpā])- 思いやり、優しさ、深い共感

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