2018年9月5日水曜日

89.ユユッツ(युयुत्सुः [yuyutsuḥ])- 戦おうとしている人


バガヴァッド・ギーターの冒頭のシュローカにある言葉です。

धर्मक्षेत्रे कुरुक्षेत्रे समवेता युयुत्सवः ।
मामकाः पाण्डवाश्चैव किमकुर्वत सञ्जय ॥ 1.1॥
dharmakṣetre kurukṣetre samavetā yuyutsavaḥ |
māmakāḥ pāṇḍavāścaiva kimakurvata sañjaya || 1.1||

毎朝のクラスにて、一語一語の詳しい伝統に沿った意味の展開を見ているところです。

この「ユユ」 という重なった音は、
「~したいと願望する」という意味を持つ動詞の特徴です。
ムムクシュ(मुमुक्षु [mumukṣu]、自由になりたい人)も同様です。


この言葉は、

戦う + ~したいと願望する + ~する人
युध् [yudh]  + स [sa] + उ [u]

という、みっつの要素から出来ています。
以下で詳しく説明しますね。

ブラジルなど南米で良く知られている「柔術(jiujitsuと発音される)」
は、サンスクリット語の「ユユッツ(yuyutsuḥ)」から来た!
と言う人もいますが、それは違うような気がするなぁ。

ちなみに、上のギーターのシュローカでは複数形で使われています。
u で終わる男性形のプラーティパディカ(名詞の原形)なので、
第1格複数(1/3)だと、u の部分が avaḥ になりますね。


言葉の成り立ち



上にも述べたとおり、ユユッツ(युयुत्सुः [yuyutsuḥ])という言葉は、

युध् [yudh] という、「戦う」という意味の動詞の原形に、

सन् [san] という、「~したいと願望する」という意味の接尾語を付加し、

さらに、उ [u] という、「(その人のあり方として、常に、うまく)~する人」という意味の接尾語を付加して出来た言葉です。


サナンタ・ダートゥ


सन् [san] という接尾語は、動詞の原形の後ろに付加して、
「~したいと願望する」という意味の新しい動詞の原形を造るために使われます。

この接尾語が来ると、動詞の原形の音節は二回繰り返されることになります。
この、音節を二度繰り返すことを、ドヴィットヴァ(द्वित्व [dvitva])と呼びます。
また、繰り返して出来た二つの音節の、最初の音節を、アッビャーサ(अभ्यास [abhyāsa])と呼びます。


この接尾語で終わっている動詞の原形を、サナンタ・ダートゥと呼びます。
サナンタとは、san + anta(終わり)、ということですね。
(8.3.32にてnがもういっこ増えてसन्नन्त となります。)

ダートゥとは、動詞の原形のことです。

サンスクリット語には、動詞の原形には2種類あります。
元素のように、最初からある2千ほどの動詞の原形と、
サナンタ・ダートゥのように、他の言葉から派生して出来た動詞の原形です。

ちなみに、सन् [san] の最後のnは、音の抑揚の為にあります。


言葉を造るプロセス


yudh + sa  
動詞の原形の後ろに、「~したいと願望する」という意味において、
接尾語 sa を付加します。

yudh yudh + sa  
san で終わっている言葉の最初の音節は、二度繰り返されます。

yu yudh + sa  
繰り返された最初の音節の、初めにある子音だけを残して、後ろのdhは消えます。

yu yut + sa
無声音 s の前にある有声音 dh は、無息音・無声音 t に替わります。

これで、yuyutsa という新しい動詞が出来ました。

yuyutsa + u
新しい動詞の原形、今度は「~する人」という意味の u という接尾語を付加します。

yuyuts + u
接尾語の直前の a が消えます。

yuyutsu
新しい名詞の原形の出来上がり。


 スートラを使った造語プロセス


युध् + सन्     3.1.7 धातोः कर्मणः समानकर्तृकादिच्छायां वा । ~ सन् धातोः प्रत्ययः परश्च
सन् is किद्वत् by 1.2.10 हलन्ताच्च । ~ इकः झलः सन्, thus no गुण takes place on युध् by 1.1.5 क्क्ङिति च । ~ गुणवृद्धी न
युध् युध् + स    6.1.9 सन्यङोः । ~ एकाचः द्वे प्रथमस्य धातोः अनभ्यासस्य
यु युध् + स    7.4.60 हलादिः शेषः । ~ अभ्यासस्य
यु युत् + स    8.4.55 खरि च । ~ झलाम् चर्
युयुत्स is qualified to be धातु by 3.1.32 सनाद्यन्ता धातवः।
युयुत्स + उ     3.2.168 सनाशंसभिक्ष उः । ~ तच्छीलतद्धर्मतत्साधुकारिषु धातोः प्रत्ययः परः
युयुत्स् + उ     6.4.48 अतो लोपः । ~ आर्धधातुके
युयुत्सु is qualified to be प्रातिपदिक by 1.2.46 कृत्तद्धितसमासाश्च । ~ प्रातिपदिकम्

こういうのを一緒に楽しめる人を日本で増やして行きたいです。。


関連記事:
<< サンスクリット語一覧(日本語のアイウエオ順) <<


2017年12月20日水曜日

88.観音さま(アヴァローキテーシュヴァラ)についてのサンスクリット語


観音様って、どういう意味で、そういう名前になったの?
音を観てるの?と気になったので、調べてみました。
「観」は、サンスクリット語からの意訳で、
「音」の方は意訳の音から来ているようで、諸説ありそうなので、
ここでは、サンスクリット語の真言と名前の由来について書きますね。


観音様の真言

オン・アロリキャ・ソワカ om ālolik svāhā
ということですが、

サンスクリット語では、観音様の御本名は、
अवलोकितेश्वर(アヴァローキテーシュヴァラ)という、
男性形の言葉のようなので、
स्वाहा(捧げものをする時の言葉)は、चतुर्थी विभक्ति(第4格)を取るので、
観音様の御真言をサンスクリット語で言うと、
ॐ अवलोक्तेश्वराय स्वाहा(オーム アヴァローキテーシュヴァラーヤ スヴァーハー)
となります。

観音様のサンスクリット語の名前の由来

観音様は、サンスクリット語で、アヴァローキテーシュヴァラ(अवलोकितेश्वर([avalokiteśvara])という名前で知られていますが、
ヴェーダの文化で知られている名前ではなく、仏教の中での名前のようですね。

観音様のサンスクリット語のお名前の語源ですが、
अवलोकित(アヴァローキタ)と、ईश्वर (イーシュヴァラ)という、
ふたつの言葉の複合語(サマーサ)になっています。

ईश्वर (イーシュヴァラ)は、ヴェーダの教えの言葉そのものですね。
ヴェーダーンタの教えに沿って記事を書いています。

अवलोकित(アヴァローキタ)という言葉の意味はどうでしょうか。
लोक् というのは、「見る」という意味の動詞の原型です。
これは、लोकृँ दर्शने  (1A)と、文法家パーニニも定義しています。
そこに、अव [ava] というउसपर्ग(動詞への接頭語)をつけて、
さらに、「~した」という意味の、इत [ita] という動詞の原型への接尾語をつけると、
 「見られた、知られた」という意味の「अवलोकित(アヴァローキタ)」という言葉が出来ます。
Wiki英語版では、अवलोकित(アヴァローキタ)を現在分詞として解釈し、
「見ているイーシュヴァラ」としていますが、
パーニニの文法では、それを裏打ちするのに決定的な規則はありません。

「その人によって、イーシュヴァラは知られた」という意味でとられるのが、
文法的にはすんなり来ますね。
(अवलोकितः ईश्वरः येन सह अवलोकितेश्वरः। 113B)
複合語に使われている単語以外の言葉の意味を示す複合語(バフヴリーヒ)として
理解されるような言葉の組み合わせだからです。
(パーニニ・スートラ 2.2.36 निष्ठा । ~ बहुव्रीहौ पूर्वम् に依る)

般若心経のサンスクリット語の原文

観音様から、三蔵法師、持ち帰った文献につながり、
調べたついでに、般若心経のサンスクリット語原文を、
短い方と長い方、どちらも読んでみました。

(こいうのをさっと読めるサンスクリット語と、पञ्चस्कन्धが何かとかが分かる教養を与えてくれた、インドにいる私の先生方に感謝します。。)

「仏教の『空(シューンニャ』は、ヴェーダーンタの教えと同じではないか?」
という質問はよくされますが、般若心経の原文を読む限り、
そうとるのは難しいですね!と言うしかないですね。
それは何故か?というのを説明しても、サンスクリット語はもちろん、ヴェーダーンタもきっちり学んでいなければ、誤解しか生まないので、ここでは避けますが。。





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