2015年4月12日日曜日

太陽礼拝(スーリャ・ナマスカーラ)の意味と、そのマントラについて

ヨガの教室に行った経験のある人なら、必ず習ったことのある、

「スーリャ・ナマスカーラ(सूर्यनमस्कारः [sūryanamaskāraḥ])」は、

太陽(スーリャ)に対して、礼拝(ナマスカーラ)する為の、

一連の身体の動作です。

英語なら、太陽(Sun、サン)への礼拝(Salutation、サルテーション)で、

「サンサルテーション」と呼ばれていますね。


礼拝(ナマスカーラ)とは?


太陽があるからこそ、地球が回り、大気と海流が動き、

地球上の全ての生命活動が可能になっています。

そのことを、「しっかり認識してます、感謝してますよ~」と、

身体を使って表すのが「礼拝(ナマスカーラ)」です。


もうちょっと詳しく言うと、

敬意を含んだ認識が「ナマハ」、

そう、インドの挨拶「ナマステー」の「ナマハ」です。

「ナマハ」を身体、言葉、心で表現する行為が「ナマスカーラ」です。


「でも私、認識はおろか、感謝も出来てないんだけどな」

そうであっても心配ありません。

認識や感謝は、それを表す形(カタチ)から入ると、どんどん深まるものです。

スーリャ・ナマスカーラは、私たちの認識や感謝を深めてくれるのに役立つのです。


太陽は、ナマスカーラされるのがお好き


太陽神スーリャ・バガヴァーンは、

「ナマスカーラ・プリヤ(ナマスカーラを好む者)」と呼ばれています。

スーリャ・ナラヤナ、またはスーリャ・バガヴァーン

ちなみに、シヴァ神は、「スナーナ(お風呂)・プリヤ」、

ヴィシュヌ神は、「アランカーラ(装飾)・プリヤ」とも呼ばれいます。

毎日豪華な飾り付けがされる

つまり、彼らを喜ばせ、グレース(幸運、さらなる恵み)を受けたいのなら、

ナマスカーラしたり、お風呂に入れたり(アビシェーカ)、飾り付けをしたらいいよ、

ということです。


ヒンドゥーは偶像崇拝?


シヴァ神とは誰かというと、結局のところは、この宇宙の全てです。

宇宙全体をどうやってお風呂に入れるのでしょうか?

宇宙の全てと関わる時には、何か目の前に象徴になるものを置き、

そこに宇宙の全て、時間の全て、可能性の全てを重ねて見るのです。

その為にはまず、宇宙の全てとは何かを知っている必要があります。

ヒンドゥーの生活様式は、その知識の伝承の為にあるのです。

ヒンドゥーというと、「迷信的に石像や動物を拝めている、幼稚な民族」と、

ヨーロッパからの宣教師や学者達がレッテルを貼って、世界にプロパガンダを流しています。

しかし実際には、ヒンドゥーの儀式では、

「この宇宙の真理とは」という知識の伝承を前提として、

石像や動物、人間の上にその知識を「故意的に」重ねているのです。


「個人」として「全て」と関わる方法


シヴァ・リンガという、ナルマダー河から産出される石は、

伝統においてシヴァの象徴とされているので、

シヴァ・リンガにアビシェーカ(沐浴)するのがシヴァを讃える儀式とされます。

ヴィシュヌ神も名前は違えど、同じバガヴァーン、宇宙の全てです。

石像を造り、それをマントラを使って寺院に備え付けたものを

ヴィシュヌと見立てて、プージャーをします。

では、太陽神スーリャとは、どのように関わるのでしょうか?

空に、目に見える太陽があります。

その太陽に向かって、スーリャ・ナマスカーラをして、

地球や身体や知識が照らされて、恵まれていることに畏怖と感謝を示すのです。

超高熱で燃え盛っている、水素の塊を礼拝しているのではなく、

太陽を、象徴(シンボル)として礼拝しているのです。

では、太陽は何を象徴しているのでしょうか?


太陽が象徴するもの


太陽(スーリャ)が象徴しているのは、

全てを可能にしているエネルギーと知識です。

サンスクリット語で言うと、

サルヴァ(全ての)・シャクティ(能力を)マーン(持つ者)、

サルヴァ(全てを)ニャ(知る者、全知識)、

どちらも、この宇宙の全てを指して使われる言葉です。

恒星も、この肉体も、素粒子も、全ては知識の塊です。

その知識を全部併せて一つにして呼ぶと、

サルヴァ(全てを)ニャ(知る者、全知識)になるのです。

なぜ、全知識と、全てを知るものが同じなのかというと、

知識というものは、意識的な存在の上に成り立っているからです。

この宇宙の全知識を支えている、一つの意識体。

その意識的な存在が一つなら、それは、今そこにいるあなた自身に違いないのです。


知識の光、意識の光


意識はいつも、光と例えられます。

太陽の光という物質的な光を、光として認識できる、その意識の光。

知識は意識と一体であり、意識は光であり、知識の光は、無知を追い払う。

今そこにいるあなた自身が、全世界が神として崇めている存在に他ならないのに、

あなたときたら、見た目やお金、人間関係など、

かなりスケールの小さい事で悩み苦しんでいます。

何故そんなことが起こり得るのかというと、

あなたが、あなた自身を、その程度のつまらない存在だと認識しているからです。

何故また、そんなことが起こり得るのかというと、

自分自身の存在について、あなたはそれが何かを知らないので、

とりあえず手近にある、身体や心のあり方、地位や所有物などで、

「自分とはこんなもの」と認識しているのです。

これが、世界中の誰もがしている「自分の認識の仕方」です。


スーリャ・ナマスカーラ・マントラ


太陽(スーリャ)に対する礼拝(ナマスカーラ)は、

全身を使ってする行為です。

なんでも行為というものは、

身体だけを使ってするよりも、言葉を使ったほうが、

言葉だけを使ってするよりも、心も使ってするほうが、

より大きな結果を生みます。

ゆえに、太陽礼拝(スーリャ・ナマスカーラ)も、

身体だけでなく、マントラという言葉を使ってする行為を含め、

さらにマントラの意味を理解して、その意味を心を使って思い描く行為にすれば、

スーリャから得られる恩恵がより大きくなります。

朝に太陽のある東に向かって、スーリャ・ナマスカーラをしましょう。

*サンスクリットの文法が好きな人の為に、最後に派生のリストを入れておきました。



1.ミットラーヤ・ナマハ
मित्राय नमः [mitrāya namaḥ]

全てのものを親愛する「ミットラ」に、ナマハ

ミットラとは、普通名詞だと友達という意味です。


2.ラヴァイェー・ナマハ
रवये नमः [ravaye namaḥ]

賞賛される者「ラヴィ」に、ナマハ


3.スーリャーヤ・ナマハ
सूर्याय नमः [sūryāya namaḥ]

空で動く者(スーリャ)、
もしくは全てのものを動かす者(スーリャ)に、ナマハ


4.バーナヴェー・ナマハ
भानवे नमः [bhānave namaḥ]

全ての世界を自らの光で輝かせる者「バーヌ」に、ナマハ

「バー」とは「光る」という意味です。

5.カガーヤ・ナマハ
खगाय नमः [khagāya namaḥ]

空(カ)を行く者(ガ)「カガ」に、ナマハ


6.プーシュネー・ナマハ
पूष्णे नमः [pūṣṇe namaḥ]

滋養する者「プーシャン」に、ナマハ

「プシュ」とは、栄養を与える、という意味です。


7.ヒランニャガルバーヤ・ナマハ
हिरण्यगर्भाय नमः [hiraṇyagarbhāya namaḥ]

トータルのスークシュマ・シャリーラで自己認識している者「ヒランニャガルバ」に、ナマハ

思考、感情、知覚、生理機能などを併せてスークシュマ・シャリーラと呼びます。
スークシュマ・シャリーラは物質でないけれども、「私は~だ」という自己認識の対象になっています。
身体ひとつ分のスークシュマ・シャリーラで自己認識している主体を「個人」と呼びます。
トータルのスークシュマ・シャリーラで自己認識した場合、その主体を「ヒランニャガルバ」と呼びます。スーリャは、ヒランニャガルバの象徴として知られています。



8.マリーチャイェー・ナマハ
मरीचये नमः [marīcaye namaḥ]

全てのパーパが消滅するところ「マリーチ」、つまり「光」へ、ナマハ
もしくは光線「マリーチ」を放つ者へ、ナマハ



9.アーディティヤーヤ・ナマハ
आदित्याय नमः [ādityāya namaḥ]

アディティ(全ての産みの母)の息子「アーディティヤ」へ、ナマハ


10.サヴィトレー・ナマハ
सवित्रे नमः [savitre namaḥ]

全てを創造する者「サヴィトゥル」へ、ナマハ


11.アルカーヤ・ナマハ
अर्काय नमः [arkāya namaḥ]

崇敬に値する者「アルカ」へ、ナマハ


12.バースカラーヤ・ナマハ
भास्कराय नमः [bhāskarāya namaḥ]

輝き(バース)を創る者(カラ)「バースカラ」へ、ナマハ


ご参考までに、音声を入れておきました。
サンスクリットの発音は、発声学を知っている先生の下で習ってください。





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太陽礼拝(サン・サルテーション)のマントラも収録しています。
ヨーガの意味、幸せの意味、人生の意味、
「なぜ祈るの?」「誰に祈るの?」といった
祈りについての全ての疑問に答える、
ヨーガをする人の、必携の一冊。

祈りの理論&サンスクリット語の祈りのことば

そういう思いでこの本を著しました。

 





サンスクリットの表記文字を勉強するのにも、
良い学習教材が無い!
と常日頃思っていたので、自分で作りました。



スマホやタブレット、PCから
正しい発音の音声と、書き順の動画が確認出来る
電子書籍版も人気です。



サンスクリットの文字の練習帳です。

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>> 次回 54.サットサンガ(सत्सङ्गः [satsaṅgaḥ])>>

よく「サットサン」と言われている、「善き人との集い」という意味のサンスクリット語の単語です。

バジャ・ゴーヴィンダの歌詞を、サンスクリット語文法も少し入れて説明しました。


<< 前回 53.プラマーナ(प्रमाणम् [pramāṇam])<<

正しい知的活動の為に必ず知っておきたい常識です。




関連: サンスクリットを習い始めた人に、どうか知って欲しいあれこれ


3.アートマン(आत्मा [ātmā])

シンプルに「自分自身」という意味の言葉です。




付録:

文法が好きな人の為に:

1.
मिद्यति स्निह्यति इति मित्रः ।
मिद्  [mid] to feel affectionate + त्र [tra]

2.
रूयते स्तूयते इति रविः ।
रु  [ru] to sound + इ [i]

3.
सरति आकाशे इति सूर्यः
सृ [sṛ] to go + क्यप् [kyap] by 3.2.114
सुवति कर्मणि लोकं प्रेरयति इति सूर्यः ।
सू [sū] to impell

4.
भाति चतुर्दशभुवनेषु स्वप्रभया दीप्यतेइति भानुः ।
भा [bhā] to shine + नु [nu] by U 1.32

5.
खे आकाशे गच्छति इति खगः ।
ख [kha] sky + ङि + गम् [gam] to go + ड [ḍa] by वार्तिक of 3.2.48

6.
पुष् [puṣ] to nourish + कनिन् [kanin] by U 1.1.56

7.
हिरण्यं गर्भे  अस्य इति हिरण्यगर्भः । बहुव्रीहिसमासः

8.
म्रियते पापराशिम् अस्मिन् इति मरीचिः ।
मृ [mṛ] to die + ईच् [īc] by U 4.70

9.
अदितेः अपत्यं पुमान् इति आदित्यः ।
अदिति [aditi] + ङस् + ण्य [ṇya] by 4.1.85

10.
सू [sū] to produce + तृच् [tṛc] agent

11.
अर्च् [arc] to worship + घञ् [ghañ] object

12.
भास् [bhās] + अम् + कृ [kṛ] + ट [ṭa] 3.2.21
One who makes the luster