2017年6月15日木曜日

85.シャブダ(शब्दः [śabdaḥ]) - 音、言葉

タンプーラ、バンスリ、ハンド・タール、そしてミーラ・バイの歌声

シャブダとは


「音を出す」という意味の動詞の原型「シャブド(शब्द् [śabd])」が語源です。


タットヴァ・ボーダを勉強された人なら、

五大元素の一番最初のエレメント、

アーカーシャ(आकाशः [ākāśaḥ])の属性として、

教えてもらった記憶があるはずです。(忘れちゃってたら復習してね!)


シャブダの意味


シャブダという言葉はとても一般的な言葉なので、意味もいろいろありますが、

それらは大きくふたつに分けることが出来ます。

1.音

2.言葉


なぜこのように分けるのかは、以下のように説明することが出来ます。


「音を出す」にも、二種類ある


ダートゥ・パータと呼ばれる、2500年にパーニニよって著され、

今でも(私のクラスで)使われている、動詞の原型の辞書には、

それぞれの動詞の意味がサンスクリット語によって簡潔に著わされています。

「音を出す」という意味の動詞の原型は沢山ありますが、

パーニニによって、だいたいざっくりと以下のように分けられています。

1.人間の発声器官を使って、言語としての言葉を発する。

(व्यक्तायां वाचि, 明瞭に発声された言語という意味において) 

という意味と、

2.雷の音、動物の鳴き声、言葉ではない発声、言葉として聞き取れない発声

といった、「人間の言語ではない音を出す」

(अव्यक्ते शब्दे, はっきりしない音という意味において)

という意味に分けられている場合が多いです。


 しかし、「シャブダ (शब्दः [śabdaḥ])」という言葉はどちらにも使われています。

ゆえに、1.音 という意味でも、2.言葉 という意味にでも使われるのです。



サンスクリット文法において


文法用語でも、「シャブダ (शब्दः [śabdaḥ])」という言葉が使われる時には、
 
「言語を構成する、意味を持った音のひとかたまり」と使われることもあれば、

 「名詞の原型」という意味で使われることも多いですし、

「音そのもの」と言う時にも、शब्दस्वरूपम्  [śabdasvarūpam]  として使われます。

パーニニ文法の教えは、シャブダ・アヌシャーサナ(言葉の教え)として知られていますね。

パタンジャリのヨーガ・スートラが、

「アタ ヨーガーヌシャーサナム (अथ योगानुशासनम् [atha yogānuśāsanam])」で始まるように、

パーニニ文法の主要なコメンタリーのひとつ、महाभाष्यम् も、

「アタ シャブダーヌシャーサナム (अथ शब्दानुशासनम् [atha śabdānuśāsanam ])」で始まります。
 

プラマーナとしてのシャブダ


ヴェーダーンタをきちんと真剣に勉強している人には。

曖昧にしてはならないトピックが、プラマーナですね。

プラッティヤクシャの対象物として、色形、味、匂い、などと並んで、

シャブダ(音)というのがありますね。

しかし同時に、六つ目のプラマーナとして、

「シャブダ・プラマーナ」がありますね。

そこで、お決まりの質問・疑問ですが、

「シャブダって、プラッティヤクシャでも出て来たじゃん?」

「音も聴くし、ヴェーダーンタというプラマーナも、シュラヴァナとかいって、聴いてるし、、、」

と思うのは不思議なことではありません

違いは、

プラッティヤクシャの音(シャブダ)は、「知られる対象物」であり、

プラマーナとしてシャブダは、「それによって何かを知る手段」なのですね。

サンスクリット語で言った方が分かり易いかもしれません。

「プラメーヤ(प्रमेयम् [prameyam])」

と、

「プラマーナ(प्रमाणम् [pramāṇam])」

の違いです。

प्र + मा (プラ+マー)は、「知る」という意味の動詞の原型と接頭語ですね。

そこに、「対象物」と言う意味の「ヤ」という接尾語をつけると、「プラメーヤ」となり、

同じ動詞の原型と接頭語に、「手段・道具」という意味である「アナ」という接尾語を付けると、

「プラマーナ」となります。

これは、Enjoyable Sanskrit Grammar Volume 3 でゆっくり説明しています。

サンスクリットの文法を少しでも知っていると、

ものごとの理解が明晰になり、深まりますよ!


文献で使われている「シャブダ」という言葉


私が一番に思い出すのは、カタ・ウパニシャッドの始まりの場面です。

死神ヤマ・ラージャが、物覚えの良いナチケータスを気に入って、

首飾り(सृङ्का [sṛṅkā])をプレゼントするのですが、

シャンカラーチャーリアのコメンタリーで、その首飾りが、

「音の鳴る(शब्दवती [śabdavatī])」、そして

「宝石から出来た(रत्नमयी [ratnamayī])」と説明されているのが、

鮮明に想像できて、素敵だな、と思ったものです。





関連記事:

五大元素(パンチャ・マハー・ブータ/パンチャ・タットヴァ)について 

53.プラマーナ(प्रमाणम् [pramāṇam])- 知る手段、情報源

質問:ヴェーダーンタは哲学ではないとは?


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